ポラロイドSX-70とこどちゃポラ
2007.8.2


 学生時代に愛読した『ライフ写真年鑑 1973年』。その「新しいテクノロジー」章に POLAROID SX-70 LAND CAMERA が紹介されています。技術者が差し出したSX-70の背景はポラロイド社ベドフォード工場。コンピュータを導入した、当時としてはハイテク工場です。
 SX-70の発売は1972年。まだアポロ計画の最中で、前年に最初のシングルチップ・コンピュータi4004が発表された時代です。


 SX-70の開発は社をあげた一大プロジェクトで、当時大きな話題になりました。フィルムがそのままの形で自己現像するモノシート・タイプになったのもSX-70からです。
 左はebayで入手したライフ誌1972年10月27日号。表紙に登場しています。カメラを構えているのは開発者のエドウィン・ランド博士。記事中で、
「もしあなたがある問題を説明でき、それが充分に有意義なら、必ず解決できる」と語っています。


 記事本文。カットモデルに光を通して、軸外し系の複雑な光路を示しています。
 右ページにはICと副鏡の拡大写真が。ICは300個のトランジスタに相当する。副鏡面の設計には専任のコンピュータを2年半ぶん回し、それだけで200万ドルかかった。総開発費は2.5億ドル、しかして単価は180ドルだそうな。


 ライフの写真家にSX-70を渡して撮らせた写真。
『カメラ日和』だの『loveカメラ』だのに載っている“ポエム写真”とは格の差を感じます。
 とはいえ、もしランド博士がこれを知ったら、ポエム写真への使用を喜びこそすれ、嘆きはしなかったでしょう。これは大衆に捧げられたカメラですから。


 数々の新機軸を盛り込み、技術史・文化史に名を残したSX-70。ebayで最初期モデルを入手しました。落札価格は約120ドル。国内では2〜3万が相場です。
 畳んだ状態では文庫本と大差ないサイズです。ただし重量は750gもあります。


 ファインダー部分を引き上げると一瞬でこの姿に。著名な工業デザイナー、ヘンリー・ドレイファスの仕事です。


 銀色のステンレスに見える部分はぶ厚くクローム鍍金したプラスチック部品で、これも当時としては新機軸でした。一方、茶色い部分は本革です。


 左の赤いボタンがシャッターボタン。右の小さい窓はフォトダイオード。
 左のダイヤルはフォーカス、右は露出調整です。


 ファインダーを覗いたところ。SX-70は一眼レフで、視野にスプリットイメージの円があります。
 このカメラ、一眼レフを実現するために大変な苦労をしています。大きな撮像面をすっかり覆えるミラーがあり、露出のたびにモーター駆動でフリップさせています。露出以外のシーケンスではミラーをフィルム面に下ろし、上面にあるフレネル鏡で像を反射させてファインダーに送っています。



 SX-70用フィルムの販売は2005年に終了しています。現在販売されている600フィルムは同じ寸法ですが、感度が高すぎます。SX-70で使うためには、レンズにNDフィルターをつけたり、シャッター回路の時定数を変える必要があります。
 私は後者の方法で改造しました。ヒンジのピンを抜き、ヘッド部分を裏から解体します。ファインダー部を下から見た状態になります。



 現れた基板。ICが三つあります。基板上にはテキサスインスツルメンツのマークがプリントされています。
 露出の時定数は基板右上の裏にある抵抗とコンデンサで変わります。CPU制御ならもっとスマートな方法を採りそうなものですが。この改造についてはblog Polaroid SX-70 改造工程を参考にしました。実測で900pFあったコンデンサを86pFに換えました。一般には150〜200pFといわれていますが、これでは露出オーバーでした。86pFでもまだオーバー気味ですが、カメラの露出調整ノブでカバーできる範囲です。
 なお、コンデンサは基板の上面(写真に写っている側)に取り付けても支障ありませんでした。


 このカメラ、「テスト済み。状態良し」として出品されていたのですが、ハズレでした。一枚撮ったらフィルムの排出が途中で止まり、モーターが空回りして止まらなくなりました。
 まあebayではよくある話なので、tradebitでPolaroid SX 70 Repair Manualを有償ダウンロードして修理にかかりました。ほどなく、モーターとギヤを連結するプラスチックのカプラーが割れているのを発見。シリコンチューブでジョイントの代用にしたら直りました。
 左はマニュアルの該当個所。写真を取り忘れたので、代わりに。


 上記マニュアルの巻末にあった故障分析チャート。私の修理には役立ちませんでしたけど。



 こちらは1600円で入手した「こどものおもちゃ Newポラロイドカメラ」、通称こどちゃポラ。販売元はトミー、1996年発売。ものすごいカラーリングですが、カメラ自体は英国製のポラロイド636 Closeupで、しっかり作り込まれています。



 格納形態でもあまり小さくなりませんが、よくこなれたデザインで、誰でも失敗なく使えます。ストロボは常時発光し、逆光でも屋内でも必ずそれなりに映ります。
 ストロボの電源はフィルムパック内の薄型電池です。SX-70もそうですが、カメラ本体に電池はありません。


 こどちゃポラには「小学生編」(640タイプ)と「中学生編」バージョンがあります。これは後者で、クローズアップ機能が売りです。
 左の絵はクローズアップモードでの模範的な構図を示しています。このモードに切り替えるとファインダーに顔の位置を示す楕円パターンが現れる親切アフォーダンスつき。


 四半世紀の隔たりをもつ二機。
 SX-70以降のポラロイドは低価格&フールプルーフ路線をとっていて、一眼レフはほぼ消滅しました。636も単純なビューファインダー方式で、フォーカスは固定です。
 そして汎用カメラから“交際支援ツール”への変化は、他ならぬSX-70がもたらしたものと考えられます。
 実際、こどちゃポラはチュニジア旅行で大活躍しました。チュニジア紀行参照のこと。


 SX-70のテスト撮影。30cmくらいまで接写できました。
 階調に乏しく、解像度も高くありませんが、撮ってるほうは面白いです。その場で像が浮かび上がり、データ化・抽象化を経ずに決着するところが快感で。
 このフィルムは「限定ポップアートフレーム」、いわゆる柄つきです。1パック(フィルム10枚入り)で950円だったので。柄なしだと1600円くらいしますが、お買い得パックなどを利用すると1パック1000円程度で買えます。


 SX-70のテスト撮影その2。津市のうなぎ屋、新玉亭で「大盛り」指定するとこんなことに。窓際の席で撮りましたがやや暗く、手ぶれしてしまいました。



 こどちゃポラの作例。チュニスのカフェで現地の人に撮ってもらった私。こどちゃポラはストロボが常時発光するのですが、ほどよい暗さのとき手ブレすると背景だけが流れて、こんな面白い効果が出ました。



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