M-V-7/ひので 打ち上げ取材(打ち上げ当日編)
2006.9.27
M-V-7/ひので 打ち上げ取材(リハーサル編)へ。



 9月23日、打ち上げ当日。午前3時頃の記者席。このあと少し雨が降って、車に逃げ込むことになりました。心配しましたが、カウントダウンは続いています。


 午前6時、NHKの中継が始まりました。打ち上げまであと30分ほど。


 記者席の背後にある宮原の精測レーダー。ここは関係者もしくは 招待者の見学に使われているようでした。人が鈴なりになっています。


 打ち上げ直前の射点。打ち上げは眼視することにしているので、スチル写真は撮っていません。ただしデジカメでファインダーを覗かずにムービー撮影しました>YouTubeにUPした動画
 6時36分、ロケットは定刻に打ち上げられました。二段目の分離前に雲に隠れましたが、その力強い離昇に心が震えました。バリバリという爆音は、超音速の噴射が空気を砕いて生じるもの。種子島のH-2ロケットより記者席の距離が近いので迫力満点です。


 後に残った噴煙。昇ったばかりの朝日に照らされています。記者席のスピーカーから「ロケットは順調に飛翔しています」「三段目を分離しました」の声が流れています。


 8時、打ち上げ後の記者会見が始まりました。このときにはもう衛星からの第一声が受信されています。
 以下、SACニュース掲示板の松浦の投稿よりメッセージを転載します。
 森田教授 「すべての作業は順調に進み、今日も雨雲は割と早く過ぎ去って非常によい条件で打ち上げることができた。計画通りの軌道をたどってロケットは飛行した。今日の段階では大成功である」


小杉教授 「ようやくこの日が来たというのが実感だ。SOLAR-Bは15年前から構想していた。衛星は打ち上げ直後はへそのおが取れたばかりの赤ん坊であって、これから長期戦だとスタッフに声を掛けていたが、森田先生率いるロケット側が完璧に近い軌道に入れてくれたおおかげで、最初のパース局で信号を受信できた。受信できるとは期待していなかったのだけれども。  オーストラリア・パース、チリ・サンチャゴ、アメリカ・ワロップスの3局でデータを取れており、姿勢、電源の入っている機器などすべて正常である」


常田教授 「搭載されている望遠鏡は掛け値なしに最先端である。国際的な機体は非常に高い。11月〜12月には最初の画像が得られるだろう。望遠鏡は国際協力で作っており、オンリーワンの最高のものを作ろうとやってきた」

 常田先生には私からの質問に答えていただいたので、その部分をテープ起こしして詳しく書いておきます。ちょっと長くなりますが、太陽科学の旬の部分がよくわかる内容ですので。
野尻 「ひのとり、ようこう、ひので、と太陽観測衛星は3機目だ。ようこうは大成功の衛星だったが、その成果を受けてのサイエンスの連鎖の部分をアピールして欲しい」
(実際には「ようこう」と「ひのとり」を言い間違えて小杉先生に訂正される一幕もあったのですが)
常田 「『ようこう』の成果のポイントは宇宙に置ける磁場の役割の解明、とまとめられています。磁場があるということはエネルギー密度があって、それを使って爆発現象とかプラズマの加熱を起こすことができる。『ようこう』の前にはそういうことが理論的にあるかもしれないと考えられていましたが、『ようこう』によって観測的に磁気リコネクションに代表される現象が起きていることがわかった。
 磁気リコネクションとはなにかというと、磁場のエネルギーをプラズマのエネルギーに変える宇宙のエンジンであると言えます。それをもとに『ひので』衛星を構想しました。磁場の爆発するところをX線で観測したのが『ようこう』なんですが、次にその起源がどういうものかという性質をより直接的に探ろう――ということで可視光望遠鏡で磁場の形状・状態を直接観測する。それは『ひので』衛星が世界で初めてやります。
 さきほどカルヘーンさんの話にも少しありましたが、太陽の磁場は太陽の中で生じます。太陽は回転するガスの塊で、それがダイナモ機構で非常に強い磁場を作っている。太陽の表面だけじゃなくてこの望遠鏡で内部を観測することでそのエンジン、燃料の源である磁場がどうしてできたかを解明したい。だから三つ望遠鏡があって、エネルギー源である磁場の生成を可視光で観測して、さらにそれがエネルギーに転換されて高温のプラズマができるところをX線望遠鏡で観測する。そうやって原因と結果を同時に観測する史上初めての衛星です。さきほど『非常にうまくコーディネイトされた三つの望遠鏡』というお話がありましたけど、そういう意味で、ちょっと自分で言うのもなんですが、きわめて整合性のとれた観測装置が搭載されているということができると思います」(強調筆者)

 ある衛星で新発見をする。次の衛星でその発見をさらに深める――この連鎖があることは、宇宙研が太陽科学の先頭に立って道をつけていることに他なりません。この連鎖がいつまでも保たれることを願うものです。
 なお、『ようこう』の成果について知りたい方は『写真集 太陽』(柴田一成、大山真満著、裳華房)がおすすめです。


Hill 「美しい打ち上げだった。この国際協力に参加できたことを誇りに思っている。アメリカのサイエンスコミュニティは、衛星がもたらす巨大な成果を心待ちにしている」


Culhane教授 「素晴らしい打ち上げに英国を代表して参加できたことをうれしく思っている。私は『ようこう』でもイギリスの観測装置を搭載し、実り多い成果を挙げることができた。『ひので』の国際協力は重要なものであり、素晴らしい成果がでることを心待ちにしている」


 通訳の坂尾助教授。


 司会の的川教授。ユーモアをまじえ、会見をいい感じにリードしてくれました。


 全員でポーズをキメます。記者が前に群がって、何度も撮りました。

 この記者会見でもM-V廃止の是非をめぐる質問が相次ぎました。打ち上げがパーフェクトだっただけに、廃止が惜しまれてなりません。
 的川先生はこれについて、日本惑星協会のコラムでこんな意見を述べています>Mロケットが消える日ありがとうM-Vロケット、また会う日まで
 森田先生は次期小型ロケットについて、「ひとりの宇宙ファンとしてはM-Vの廃止は惜しいが、プロマネとしては改良したい部分がある。次期小型ロケットにはそうした改良も盛り込み、さらに次期中型ロケットにつなげていきたい」という回答でした。今回いろいろ見聞したところでは、この言葉に嘘はありません。ただし語られていない思いもありそうです。そして諸悪の根元に、JAXA統合がある。日本の宇宙開発で最も成功を重ねたのは宇宙研なのに、統合後はその蓄積と文化がないがしろにされている。旧NASDA勢はもっと宇宙研から学ぶことがあるのではないか――そう思います。


 管理センター前。関係者が勢揃いして寄せ書きと懇親会が開かれます。なんと、宇宙作家クラブも寄せ書きに招待されました。


 寄せ書きなどする資格はない、辞退しようかと思ったのですが、誘惑に負けました。画面左下、紙上に乗った手の小指のあたりに「野尻抱介」の字が読めるでしょうか。


 M-V最後の打ち上げだからでしょうか、ランチャー班から思わぬボーナスが。打ち上げ直後の射点を見せてくれるというのです。
 これはロケットの噴射を受ける、コンクリート製のフレームデフレクター。


 「整備塔の扉を開けるだけです」と言われていたのが、ランチャーの旋回、さらには打ち上げと同じ傾斜角までつけてくれることになりました。
 白いリング状のものはM-Vロケットの台座になる部分。


 ランチャーがゆっくり旋回しているところ。このときはまだ「M-V-7のロゴが見えるところまで回します」と言ってしました。


 フレームデフレクターの真上まで持ってきて、さらに傾斜をつけてくれました。


 あちこちモルタルが剥がれています。かすかな甘い臭いがして、それは固体燃料の燃焼によるものでした。


 ランチャーをバックに記念撮影。なんか人生のピークです。

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