『天使墜落』推薦文

1998.9.15


 今年の星雲賞海外長編部門は、おおかたの予想に反してラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル&マイクル・フリン著、浅井修訳『天使墜落』(東京創元社)が受賞しました。
 ……どうしてこんなことに?
 僅差で『火星夜想曲』に勝ったらしいのですが、創元の編集者Kさんは「野尻さんが騒いでくれたおかげでしょう」とおっしゃいます。そ、そうなんでしょうか。(ほんとにそうだとしたら、古沢さん、ごめんなさい)
 確かに私は騒ぎました。だってめちゃくちゃ面白かったんだもの。
 そりゃあ、右翼とか内輪受けとか自己憐憫とか「クリエイターが自分のことを書き始めたらおしまい」とかメンテナンス・フリーの宇宙機なんてありえないとか、いろいろ欠点はあるけど――とにかく面白いんだから未読の人は読んでみよう。もう1ページめからぐんぐん引き込まれる面白さなんだから。SFってのはまず小説として面白くなきゃいけない。
 そしてこの作品には、面白いだけではすまない、心に残る魅力があります。
 解説にも引用されている、本文中の名セリフをここにも引用しておきましょう。
「もっとも憂鬱なディストピア小説にさえ、未来はわたしたちが築くものという意識がある。偶然につくられるものじゃなくてね。未来を予測することはできないけど、想像することはできる。構築することはできる。それは希望に満ちた考えだわ。たとえ構築が失敗に終わるとしても」
 著者たちがどれほど偏向していようと、この意志に私は強く共感します。牧眞司氏は解説で「この『希望の感触』さえ共有できれば、『天使墜落』は十二分に楽しむことができる。ファンダムについての知識や、ファン活動の経験の有無はこのさい関係ない」と述べていますが、そのとおりだと思います。

 ……というわけで、推薦文まで書かせてもらうことになって。
 オビとはいえ、創元の本に私の文章が載るなんて、なんとうれしいことでしょう。とりあえず能天気に喜んでおきます。
 オビの裏側にある推薦文はこのとおり。
SFファンをやっててよかったと思う本がある。その一篇でSFファンになる本もある。これはそういう本だ。墜落した“天使”をふたたび宇宙に還すために、SFファンが団結する。自分たちの力で、ロケットを打ち上げる! まさか?――いや、ほんとうにできそうな気がしてくる!
SFファンなら反逆せよ! 歌え! 宇宙開発に手を貸せ! もしそれで軌道にたどりつけるのなら、ぼくはお尋ね者のSFファンになろう!
 注:「できそうな気がしてくる」とは書いたけど、「できる」とは書いてないから、そのへん誤解なきよう。


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